「ねえ、ハック、金持ちになったって、ぼくは盗賊をやめるつもりはないよ」
「今の悪習慣を変えてほしい人」がいるけど説得が難しいと思っている人が
- プライドを傷つけないような説得方法が分かる
- Win-Winの取引ができる
- 人間関係も良くなる
『トム・ソーヤの冒険』のあらすじ
トム・ソーヤは弟のシッドと一緒にポリーおばさんの家に住んでいる、近所でも評判のいたずら好きな悪ガキです。
一方でトムはポリーおばさんから言われた仕事や学校をうまくさぼることにかけては、大人も感心するくらいの頭の切れる子どもでもありました。
トムにはみなしご浮浪児のハックと同じクラスのベンという友達がいて、よく3人でいたずらをしては大人を困らせていました。
ある時は「海賊団」を結成して3人で無人島のジャクスン島へ出航したものの、いかだが壊れてしまい何日か野宿をするはめになりました。
なので町の大人たちは3人が死んだと思って泣きながら葬式をあげています。
そこに、こっそり帰った3人は葬式の最中に突然現れてみんなを驚かせたりもしました。
またある日、トムとハックで夜中に墓地に遊びに出かけますが、そこで殺人事件に遭遇します。
犯人は逃亡してしまいますが、別の日にその犯人が空き家から金貨の入った箱を運び出すのを見てしまい、何とかその宝を手に入れたいとハックと計画を立てます。
「宝探し」の中で、トムは殺人犯に追われたり洞窟に閉じ込められたりして危ない目にも遭いますが、何とか危機を脱していきます。
冒険の末に、トムとハックは殺人犯の残した宝を見つけることができ一躍時の人になってしまいました。
ハックは町のお金持ちのダグラス未亡人の家に引き取られ学校に行くようになりましたが、トムたちのいたずらは相変わらず変わりませんでした。
名言の状況
今までは宿無し浮浪児として誰にも指図されることなく自由気ままな生活を送っていたハックにとって、ダグラス未亡人の家での生活は耐えられないものになってしまいました。
「ダグラスのおばさんときたら、鐘が鳴ったらめし食って、鐘が鳴ったらベッドにはいって、鐘が鳴ったら起きて・・・・何から何まで時間が決まってて最悪だよ、もうとってもがまんできねえ」
あの金さえなければこんな面倒なことにはならなかったのに・・・とハックは脱走して元の浮浪児の生活に戻ってしまいました。
トムがダグラス未亡人の家に戻るように説得しても、ハックは「自分に合わない生活はまっぴらだ」「金を返してもいいから、元の浮浪児に戻してくれ」と断固戻る気はないと告げます。
でもトムは友達としてハックのことがとても心配でした。
いつまでも宿無し浮浪児のままでは、今のように町の人々から軽蔑され続ける人生を送ってしまう。
せっかくハックがしっかりした生活を送ることができ、人生を変えることのできるチャンスがあるのだから逃してほしくはない。
でも、ハックが今まで一人で自由に生きてきて、急に堅苦しい生活に耐えられないのもよく分かる。
ハックにとってはお金は重要ではありません。
そこでトムはハックのプライドを傷つけないような折り合いの方法を思いつくのです。
それがこの名言です。
「ねえ、ハック、金持ちになったって、ぼくは盗賊をやめるつもりはないよ」
名言の本質
ハックは海賊に憧れていて、トムとベンと一緒に海賊団を結成したこともありました。
なのでトムは‟海賊よりも格が上な盗賊団”を結成するとハックに告げると、案の定話に飛びついてきました。
「俺だけ仲間はずれになんてしねえよなあ?」
トムは恐らく「しめた!」と感じたでしょう。
「ぼくだって、できれば、どんなことしたくないよ。ほんとだよ。だけど、人が何て言うと思う?『ふん、トム・ソーヤーの盗賊団か!下種どもの集まりだ!』って言うよ。それって、おまえのこと言ってんだよ、ハック。そんなの、やだろ? ぼくだって、やだよ」
「盗賊団にいれてやりたいけど、今のハックでは・・・・」と脅かしておいて、「だったらダグラス未亡人の家で規則正しい生活をして下種な人間と思われないようにがんばってほしい」とハックを励ますのでした。
これでハックは「一月だけ我慢してみるから、そしたら盗賊団に入れてくれよ」と心を決めました。
これでハックはダグラス未亡人の家に戻ることはほぼ確実なのですが、トムはここでとどめのもう一押しを放ちました。
「この条件ではハックが100%耐えなくてはいけない」とかわいそうに思ったトムは、ハックの気持ちもくみ取りました。
「もう少しハックを自由にさせてもらうようにダグラス未亡人に頼んでみる」と少し条件を緩めたことでハックの気持ちも楽になり喜んでもらうことができました。
行動への応用
人の行動を変えるように説得するのは難しいですね。
頭ごなしに言っては拒否されてしまうし、遠回しに言っては伝わらない。
その人が積み重ねてきた経験や自負もあるでしょうから、それを無下にしてはプライドも傷ついて恐らく耳も貸してはくれないでしょう。
トムは頭が切れる少年だけあって、その点がとてもうまいですね。
その人の理想形をイメージさせておいて、それに到達するためには今の行動を変えなくてはいけないと暗に教えてあげる。
ハックの理想は「盗賊団に入ること」
そのためには下種な人間と思われないように、ダグラス夫人の家で規則正しい生活を送って学校にも行かなくてはいけない。
しかし、今までのハックの生活を100%変えようとしたら、恐らく続かなくて挫折してしまう可能性も大いにあります。
そこで「一月だけ」とハックがやる気を見せたところにすかさずトムは、「少しハックが自由にできるように頼んでみる」と少し緩めることでハックのプライドも保てました。
ちなみにこの後ハックはどうなったのでしょうか?
それは『トム・ソーヤはの冒険』の続編『ハックルベリィ・フィンの冒険』を読んで確かめてください。
もし、あなたにも「今の習慣を変えてほしい人」がいるようであれば、トムがしたような方法を試してみたらいいかもしれませんね。
- 「今の習慣を変えるとこんないいことがある」という理想を示してあげる
- そのためには「今の習慣を変えてみる必要がある」と告げる
- ただし全く正反対の習慣に変えてしまっては息が詰まって続かないので、今の習慣もある程度残しておく
ぜひ試してみてくださいね!
『トム・ソーヤの冒険』の他の名言
トムは人間の行動原理に関わる重大な法則を発見したのだった。すなわち、大人でも子供でも何かを欲しくてたまらない気持ちにさせるには、それを手に入れにくくしてやりさえすればよいということである。
トムはポリーおばさんから言いつけられたフェンスのペンキ塗りをやらなくてもいい方法を考えます。
そこで、前を通りかかる同級生に「ペンキ塗りは楽しくてしょうがない」「これをやらないと損だ」「でも、これができるのは世界で俺しかいないからお前には無理だ」と言いくるめてペンキ塗りをちゃっかりやらせてしまいました。
【この名言についてはこちらのブログでも書いています】
昔からの習慣というものは、往々にして、正当化の根拠が薄弱なものほど廃止が難しいようである
教会での長々とした「お知らせ」は、新聞がこれだけ普及していてもまだ続いています。
「昔から続いているから・・・」というだけの理由で続いている時代遅れな慣習ってありますよね。
「なぜそれが必要なのか?」ということを考えないといけませんね。
何かをしないと約束することは、まさにそのことをしたくてどうしようもない気持ちにさせる最も確実な方法である、と知ったのである。
要するにやってよいと言われたら、欲望は萎え、魅力も消失してしまうのである
トムは新しく結成された「禁酒少年団」に入りました。
そこでは当然酒を飲めない、タバコも吸えない、乱暴な言葉遣いをしないという決まりがあるのですが、禁止されているとトムは却ってやりたくなってきました。
ところが、禁酒少年団を退団すると嘘みたいにその気持ちがなくなったのです。
今夜の確実な楽しみのほうが不確実な宝探しより優先だと
トムはガールフレンドのベッキーと出かけることになりました。
ベッキーのお母さんには友達のジョー・ハーパーの家に出かけると言ってあったのですが、お金持ちのダグラス未亡人の家に行けば大好きなアイスクリームがもらえます。
実は同じ日の夜にハックから宝探しの誘いがあるかもしれないのですが、昨日もなかったし今日もないだろうとトムはアイスクリームを選ぶことにしました。
宝探しはあるかないか分かりませんが、アイスクリームは行けば確実にもらえます。
トムは確実な方をとりました。
【この名言についてはこちらのブログでも書いています】
歳を重ね挫折を重ねて心の弾性を失ってしまわないかぎり、希望というものは本来よみがえるようにできているという、それだけのことである
トムはベッキーと入った洞窟の中で道に迷ってしまいました。
トムは当てがあるわけでもないのですが、とにかく歩き続けました。
それだけでも心が折れるのを防いで希望を持てる気がするのでした。
そんなの関係ねえよ。おれ、『誰でもみんな』じゃねえもん
トムに「規則正しい生活は誰でもやっていることだから」と言われたハックは浮浪児としてのプライドを見せました。
みんなやってるかもしれないけど、俺は‟みんな”じゃないから従う必要はないだろう。
だって、何でも簡単に手に入ったら、何も欲しくなくなるだろ
ハックは「宝を返してもいいから、元の浮浪児の生活に戻らせてくれ」とトムに願い出ます。
今の生活は望んだことが全て簡単に手に入りすぎてつまらない。
元の浮浪児の生活は欲しいものがなかなか手に入らないから、手に入れたときの喜びは大きいんだろ。
バイトなどをして苦労して手に入れたものは、買ってもらった物より愛着があると思いませんか?