だから、選ばれなかった言葉のほうがきっと、よっぽどその人のことを表してるんだとおもう
SNSの反応が気になったり、他の人の投稿を気にしてばかりいる人が
『何者』
作・朝井リョウ
新潮社
就活を通して、これらの登場人物たちの心情や行動を描いて物語が進んでいきます。
誰かの面接やSNS上での建前と裏での本音が、他の人物に影響を与えたり複雑な思いになったりと人間関係が変化していきます。
一人また一人と内定者が決まっていくとそれを妬む者や抑えていた本音が表に出てきて、ようやく自分が「何者」であるのかを考え直すのです。
「隆良とギンジのSNSに発信する表現が似ているからと、二人は似ている」と以前拓人はサワ先輩に言ったことがあります。
そのことを思い出したサワ先輩が拓に言った言葉です。
いくら使っている言葉が同じでも、いくらお前が気に食わないって思うところが重なったとしても、ふたりは全く別の人間なんだよ
さらにサワ先輩は以前拓人がSNSについて言ったことに対して話を続けます。
メールやツイッターやフェイスブックが流行って、みんな、短い言葉で自己紹介をしたり、人と会話をするようになったって。だからこそ、その中でどんな言葉が選ばれているかが大切な気がするって
しかしサワ先輩はそのことには「違う」と言い切ります。
だって、短く簡潔に自分を表現しなくちゃいけなくなったんだったら、そこに選ばれなかった言葉のほうが、圧倒的に多いわけだろ
だから、選ばれなかった言葉のほうがきっと、よっぽどその人のことを表してるんだとおもう
たっ一四〇字が重なっただけで、ギンジとあいつを一緒に束ねて片付けようとするなよ」
以前は自分の本音を言えるツールなんて日記くらいしなかったのに、今は誰でも瞬時に不特定多数に自分の考えを届けられる時代になりました。
そんなこの時代に生きる私たちが必要なことは“想像力”ではないでしょうか。
SNSでつぶやける文字数には制限がある場合もあります。
だから、そこに載っていない言葉にこそ本音が隠されていたりします。
サワ先輩はこんなことも言っています。
ほんの少しの言葉の向こうにいる人間そのものを、想像してあげろよ、もっと
SNSをやっていると忘れがちですが、スマホの向こう側にはつぶやいた人がいるのです。
どれだけ便利なものが発明されても、根底にあるのは人と人のつながりだと思うのです。
SNSが広く使われることによって、すぐ批判したりクレームのコメントを送る人も多くなってきていますね。
でもそれはその人の思いをきちんと分かっているのでしょうか?
表面的な部分でしか判断していませんか?
今何気なく読んでいるつぶやきや投稿に「書かれていない言葉」と「書いた人」のことをぜひ想像してみてください。
それだけでも、人と人が心から繋がれる優しい世界に変わると思うのです。
なんでもないようなことを気軽に発信できるようになったからこそ、ほんとうに大切なことは、その中にどんどん埋もれて、隠れていく
生きていくことって、きっと、自分の線路を一緒に見てくれる人数が変わっていくことだと思うの
十点でも二十点でもいいから、自分の中から出しなよ。自分の中から出さないと、点数さえつかないんだから